a_sue’s diary

a_sue の日記 はてなブログ版

『月は無慈悲な夜の女王 Kindle版』 ロバート・A・ハインライン 矢野徹 早川書房

kindleは基本的に移動読書なのだけど、休日の散歩中に読んでた続きが気になって結局家で読了という、面白い本でのいつものパターン。
面白かった。

1966年に発表された本で、wikipedia によれば、1969年にハヤカワSFシリーズで出て、ハヤカワ文庫に入ったのが1976年らしいので、少なくとも興味を持った時点で原書のペーパーバックで読むしかなかった「夏への扉」よりは読むためのハードルが低かったはずの作品。
買った時にも書いたが、SF読みの基礎教養なのに今日まで放置してたのは僕の怠慢。
作品世界は2070年代なので、執筆時期と舞台世界の中間点をすでに過ぎている。
僕のSF読みとしてのキャリアは小学校の図書室にあったジュブナイルのSFシリーズから始まっていて、「宇宙の孤児」のジュブナイル翻訳版は読んでいるが、この作品があったかどうか記憶にない。
最初にタイトルを意識したのは、初のOVAである「ダロス」を見た時に、友人が「月は無慈悲な夜の女王の世界だな」、と言った時だから80年代前半。
その時点でもちろん読んでなかったが、読もうと思えば読めたはずなのだけど頑張って読もうという気にならなかったのは、嗜好の問題なのだが。
読んでみたらむちゃくちゃ面白くて、2021年まで手を付けなかったのを深く後悔してますよ。
ガンダムの元ネタとして、同じハインラインの「宇宙の戦士」が真っ先に挙げられるのだけど、これも元ネタだと思った。

と言うような作品なので、今更ネタバレに気を使ってもしょうがないのだけどどんな作品にも初めて読む読者はいるので、気になる人向けにちょっと空けます。
以下ネタバレあり。

















月が流刑地から植民地になってて、地球から搾取されるのに反旗を翻して対等な立場に立とうとする独立戦争というのは、もちろんアメリカ独立戦争なのだろうけど、2021年の日本人から見ればガンダムの世界そのもの。
戦闘手段を持たない月側は、輸送手段の電磁射出機を使って質量を地球に投げることで核爆弾並の破壊力を得るのだけど、ギレン・ザビコロニー落としはこれか!と。映像的には落ちていくコロニーの周囲にモビルスーツまでいたのだから背景が違うけどね。
射出機を使うといえば、ホーガンの「未来の二つの顔」でも自我を持ちつつあるコンピュータが射出機を使って質量をぶつけることで月面の土木的な障害を排除するという冒頭のシーンは、本作を連想させられる。
物理現象に関しては、正確な描写を心がけてあり、かつ社会活動的にもいろんな要素を織り込んであって、その描写はハードSFそのもの。
特に社会や経済や家族のあり方にまで世界を広げた描写は、昨今のラノベなどの及ぶところではない。
でも、ガンダムもSFじゃないと言うほどひどくないんじゃない?
とか、いろんなことを思いながら読み終えた。
あ、「タンスターフル(無料の昼食はない)」って出てくるんだけど、これで日本人に広がったのかな?いや、広がってるというまではいってないか?

とにかく、これまで読んでなかったのを懺悔したくなるような作品だった。
読んで良かった。